DREAM CHASER | LINER NOTES

結成30年目にしてリリースしたキャリア初のフル・アルバムから時を経ること11年、バンド結成からちょうど40年を迎えた2015年にBLAZEが満を持してセカンド・フル・アルバム『DREAM CHASER』を完成させた。アルバム『DANGER ZONE』をリリースして何度かのギグを行い、06年には04年に行われたライヴの模様を収録した『LIVE IN JAPAN 2004』、そしてシングル『BORN TO BE LONELY』をリリースして以降は長い沈黙期に入り、そこから数えても9年という歳月が過ぎている。かくして届けられたこの『DREAM CHASER』は『DANGER ZONE』同様、またしても待たされただけのことはある傑作に仕上がっているのは言うまでもない。

まずはBLAZEの40年にわたる軌跡を簡単に振り返っておこう。BLAZEは1975年、SHIGE(池田繁久/ギター)を中心に結成されている。結成当初からギターと鍵盤のアンサンブルを軸にしたディープ・パープル・スタイルのハード・ロック・サウンドを追求、渋谷・屋根裏などのライヴハウスを中心に精力的にライヴ活動を展開し、その高い実力に注目が集まるのに、それほど長い時間はかからなかったようである。
BLAZEは幾多のメンバー・チェンジを経ながらも活動を続け、80年にはカルメン・マキ&OZやNOIZなどで活動してきたドラマーのSAM(岡本サミュエル)が、さらに83年にはセッション・ミュージシャンとして活動していたキーボードのNOBU(増田隆宣)が加入している。しかし、80年代前半にはNWOBHMに呼応するように日本のシーンでもヘヴィ・メタル・ムーヴメントが隆盛を極め、LOUDNESS、EARTHSHAKER、44MAGNUM、X-RAYなど、レザーとスタッドに身を固めた、ルックス的にもヘヴィ・メタルを体現した数々のバンドが一躍メジャー・フィールドに活動の場を移していった。そうした状況にあってもBLAZEはいわゆる80年代的なヘヴィ・メタル的なサウンドとは一線を画す自らのスタイルを貫き続け、その実力は高く評価されていたものの、結果的に87年に惜しくもバンドは一時的に解散を余儀なくされてしまう。
それから約8年を経た95年、70年代当時からBLAZEの熱狂的な信奉者であったというJACK(大石征裕/ベース)の呼びかけにより、SHIGEとNOBUが集結、3人でスタジオ・セッションを行い、BLAZEとして再始動を果たしている。それぞれのメンバー個別の活動のかたわら、BLAZE初CDのリリースを目指してじっくりとプリプロダクション作業を進めていくなか、00年にはSAMが復帰、さらには01年末にはヴォーカリストとしてIKE(生沢祐一)を迎え入れたことで5人のラインナップが完成、02~03年にかけて制作され、04年にようやく陽の目を見たのがアルバム『DANGER ZONE』である。
04年12月には鴬谷・東京キネマ倶楽部でワンマン・ライヴを行い、日本武道館でのイヴェント「天嘉 -参-」にも出演している。このふたつの公演からベスト選曲した映像作品『LIVE IN JAPAN 2004』を06年6月にリリース、この時にもSHIBUYA BOXXで対バンを交えて2日間のギグを行っている。そしてこの年の年末にシングル『BORN TO BE LONELY』をリリースし、直後に行われた「天嘉 -伍- [DANGER V]」にも出演、さらなる活動にも期待がかかったが、続く『DREAM CHASER』の登場にはさらに9年の歳月を要することとなった。

『DANGER ZONE』自体も、メンバーが完全に揃っていない状況から制作が始まったとはいえ、やはり95年から9年近くをかけてじっくりと練り上げられたことを考えれば、今作も完成までにほぼ同じ時間がかかったのもおおいに頷けるところである。メンバーそれぞれに自身の多忙な活動のかたわらに制作を進めてきたことももちろんだが、それが決して“かたわら”ではすまされない高度な音楽性をBLAZEの音楽が有していることもまた事実と言えるだろう。現在の音楽業界で9年もの間作品をリリースしない、あるいは作品の制作を続ける、というのはまったくもって正気の沙汰ではないのかもしれないが、それだけの熟成期間を経たからこその奇跡的とも言うべきクオリティがこの『DREAM CHASER』という作品にあると断言できる。
アルバムはSAMのヘヴィなドラム・ロールをイントロに置いたタイトル曲「DREAM CHASER」でスタートする。SAMとJACKのグルーヴィーなリズムに乗る、SHIGEのナチュラルに歪んだギター、そしてヴィンテージな香気をまとったNOBUのハモンドの絶妙なハーモニーがサウンドを牽引していく。『DANGER ZONE』がロニー・ジェイムズ・ディオ~グラハム・ボネット期のレインボーを想起させるサウンドとするなら、今作はむしろデヴィッド・カヴァーデイル在籍時の第3~4期ディープ・パープルの匂いを感じさせると思うのだが、いかがだろうか。
そうした空気感は続く「ANGEL'S EYE」や「MARIA」といったナンバーからも濃厚に感じられる。70'sハード・ロック特有のボトムの低いサウンドでありながら、前作にはなかった濃厚なファンクネスを感じさせる。IKEのヴォーカルは前作よりも若干キーを下げた印象だが、それがかえってカヴァーデイルやポール・ロジャーズといった、ソウル、R&Bをルーツに持ちながらロック畑で活躍した名ヴォーカリストたちにも肉薄する表現力を見せつけてくれる。
このアルバムのなかではアップ・テンポな楽曲のひとつといえる「MOON RIDER」はNOBUのロックンロール・ピアノが冴えるナンバーだ。「ハイウェイ・スター」を髣髴させる、マーシャルで歪ませたオルガン・ソロも出色である。また、まとまったギター・ソロ・パートこそないものの、トレモロ、アーミング、スライドと、特に第3期ディープ・パープル以降のリッチー・ブラックモアを感じさせるプレイを各所にちりばめているSHIGEのセンスも素晴らしい。
JACKの重厚なベース・ラインに導かれて始まるスロー・ナンバー「MOTHER」。前作『DANGER ZONE』にも「Ignorance」というバラード・ナンバーが収録されていたが、シンフォニックなキーボード・ワークと抑えたトーンでむせび泣くギターが楽曲をよりドラマティックに演出している。今作中でもハイライトと言えそうなナンバーだ。
続く、やはりヴィンテージな音色のハモンドのイントロからスタートする「THE HALF OF MINE」もブリティッシュ・ハード・ロックの伝統美を感じさせる力強いナンバー。メンバーそれぞれの力量を存分に見せつけながら、陰と陽/静と動を絶妙に表現しきった約9分におよぶ、本作でもいちばんの大作である。
「RODEO GIRL」は前作収録の「Vino amargo」と対を成すような、SHIGEのアコギ・ソロ曲。スパニッシュな匂いが濃厚だった「Vino amargo」に比べ、こちらはカントリー・テイストが強い仕上がり。シームレスに続く「I CAN'T STOP LOVING YOU」にも言えるが、ある意味ではアメリカン・ロック的なテイストも感じさせるあたりは前作にはなかった傾向と言えるだろう。この楽曲もSHIGEのスライド・プレイが強烈だ。
バロック的なオルガン・フレーズから始まる「BREAK IT DOWN」はアルバム本編中では最も速いテンポの楽曲だろう。「紫の炎」を思い起こさせる、これぞハード・ロックと言うべきパワーを感じさせる。完奏でのSHIGEとNOBUのソロの応酬も実に聴き応えがある。
ラスト・ナンバーとなる「MISS YOU」も「MOTHER」同様に叙情的なメロディが沁みるインストゥルメンタル曲。ここまではいずれもSHIGEの作曲によるナンバーだったが、この楽曲はSHIGEとNOBUの共作となる。やはりNOBUのマルチ・キーボードによる重層的なアレンジメントとSHIGEの独創的なセンスにあふれたフレーズを堪能したい。
アディショナル・トラックとして収録された「BORN TO BE LONELY」と「SARAH」は2006年12月に発表したシングル収録の2曲。基本的にオリジナルのシングルと同じヴァージョンだが、このアルバム収録にあたって新たにリマスタリングされているようである。「HERO ~Justice of my love~」は本作のためにレコーディングされた楽曲だが、このシングルの2曲に近いテイストの楽曲であることから、アディショナル・トラックの最後に収録されることになったようである。いずれも『DANGER ZONE』と今作をつなぐような、ハード・ロックの王道を往くサウンドの楽曲と言っていいだろう。

結成以降のライヴ活動で演奏されていたレパートリーを完成させた楽曲を中心に構成された『DANGER ZONE』とは異なり、今作では、7曲が新たに書き下ろされたものだという。結成から約30年にわたる活動の総決算だったのが『DANGER ZONE』とするなら、本作は『DANGER ZONE』を制作したSHIGE、SAM、NOBU、JACK、IKEの5人がよりバンドとしてのタイトな関係性を深めた状態で作られていった最初の作品ということになる。王道の様式美ハード・ロックを究極まで洗練させたBLAZEならではのアティテュードはそのままに、この9年間にさらに熟成された5人のスキルと表現力を余すところなく昇華させたサウンドは、確実に前作を凌駕するクオリティだと言える。ヴィンテージであり、様式美であるBLAZEのサウンドが、この2015年という時代に決してノスタルジアに陥ることなくリアルに鳴らされているのは、彼ら5人の音楽への妥協なき姿勢の賜物であるのは言うまでもないだろう。奇跡であり、必然の様式美ハード・ロック。その結晶が『DREAM CHASER』という作品なのである。

鮎沢裕之